2017.8.18

もし政府が、遺伝子情報からもっとも相性の良い結婚相手を見つけてくれるとしたら……。
そんな「政府通知」によって伴侶が決められる社会を描いた漫画『恋と嘘』(講談社)がアニメ化され、7/3よりTV放送中です。

実際、遺伝子によって相性のいい相手を見つけることは可能なのか? また、遺伝子の相性がいいとどういったメリットが期待できるのか?

脳科学者の中野信子さんに、『恋と嘘』の重要なテーマである“遺伝子と恋”の関係について聞いたインタビューを全3回にわたってお届けします。

脳科学者の中野信子さん

ようやくこういったテーマを描いた漫画が出てきたか! と思いました

——『恋と嘘』は、政府が遺伝子情報にもとづいて結婚相手を決め通知する、という奇抜な設定を描いた漫画ですが、脳学者として、読まれてどう感じられましたか?

ようやくこういったテーマを描いた漫画が出てきたか! と思いました。
私にとっては、けっこうリアルに感じられていたことでしたので。

この作品では、遺伝子情報に基づいた結婚を“ゆかり婚”と呼んでいて、“ゆかり婚”は離婚率が低いし子供も比較的望ましいと思われる方向に育つ、とされていますが、たしかにそうだろうなと思います。

ただ、今はまだいろいろな伏線が描かれている段階なので、そこがこれからどう回収されていくのか楽しみに読んでいます。

中野信子さんが解説する恋と嘘

人間の性格というのは、100%遺伝子で決まるわけではない

——そもそも論をお聞きしますが、遺伝子が合う相手が相性もいい相手、ということになるんですか?

運命の相手とまでは思わないですけど、性格的に合う可能性は高いんじゃないでしょうか。

ただし人間の性格というのは、100%遺伝子で決まるわけではありません。育った環境などもかなり影響がありますので、漫画は、そういった要素をどの程度加味して演算しているのか……、私としてはそこが知りたいところですね。今はまだボカした描き方になってますから。

—— 一般的には人の性格は遺伝子要因と環境要因が半々といわれていますが、そこも含めて演算しないと実際の相性はわからないということですね?

そうです。ただ少なくとも、遺伝要因はかなりありますからね。

たとえば知能に関して言うと、自分が勉強したり経験したりして重ねられていく知能……言語性知能というんですけど、これは遺伝率が低いんですね。

一方で将棋の藤井聡太四段のような、“流動性知能(=計算力、暗記力、思考力、集中力など)”が関係する頭の良さは、身体能力と似ていて遺伝率が非常に大きく、トレーニングしてもそう大きくポテンシャルが変わるということはないんです。

実際、私たちはどんなに鍛えてもウサイン・ボルトのように早くは走れそうにないですよね。
ただこれまでは、そういった生まれつきの才能というのは、知能とか運動神経において注目されていたと思うんです。それをこの漫画は、恋愛という視点に持ち込んだのが新しいですよね。

中野信子さん曰く、遺伝子が合う相手は相性もいい相手?

女性は男性を選ぶとき匂いで決めている!?

——実際私たちは、無意識のうちに遺伝子の相性で惹かれているんですか?

恋愛と遺伝子の関係も多少は研究されてきていて、「恋と思っているけど実は生物学的な要因で惹かれ合っているんだ」という、ある一定の理解は私たちの中にも浸透していますよね。

中でも一番有名なのは“匂い”。とくに女性は男性を選ぶとき匂いで決めている、と言われています。

相手の匂いが自分の匂いと遠いほど健康な子が生まれやすい、とされているんですけど、 健康以外のところ……、たとえば「二人が離婚しにくい」とかそういったところまで広げて考えられるのか? となると、そこは難しいですね。

——では何をもってして「遺伝子の相性がいい」と言えるのでしょう?

「健康な子供を作る」という相性、「離婚しにくい」という相性、「二人が愛し合う」という相性……、いろいろあると思うんですね。

ですからこの漫画の演算式は、どの相性にフォーカスして策定されているのかな、というのが私のすごく気になっているところです。その演算式の説明が次の巻ぐらいで出てくるかな……と期待して読んでいるんですけど。

——たしかに、どの相性に重きを置くかで選ばれる相手が大きく変わってきそうですよね。

有名なところでは、かつてナチスが、金髪で碧眼で背が高い子供を双子で作ろうとしたプロジェクトがありました。

成功したのかどうか分からないですけど、その研究者であったヨーゼフ・メンゲレが第二次大戦の後に逃げたとされる南米のある地域では双子の出生率がものすごく高かったりして、メンゲレの実験が成功していたのでは、などという都市伝説が流れたりしていますね。

このことからも分かるように、出生の科学的操作は昔から人類の関心が非常に高かった分野でもある。
そこにこんな軽やかに斬り込むなんてさすが! と作者の力量を感じました。

〜第2回へ続く〜

恋と嘘(ムサオ:著)

中野信子さん解説・恋と嘘

「誰かを好きになる」——人はいつの間にその罠に墜ちるのか。人生のパートナーを国が決める世界。それは希望であり、絶望であった。どこにでもいる古墳好きの少年・根島由佳吏は、そのちっぽけな胸に、燃えるような恋心を秘めていた。恋が許されない世界で、16歳の夜、少年は、禁じられた冒険へはしり出す!!

コミック1〜6巻発売中
TVアニメ「恋と嘘」 TOKYO MX ほかにて好評放送中
映画「恋と嘘」 2017年10月14日(土)全国ロードショー

※本記事は中野信子さんへインタビューを行い構成しております