2017.8.20

政府が全国民の遺伝子を分析し、16歳で最適な結婚相手を指定する「超少子化対策基本法 通称ゆかり法」が 施行されている社会を描いた漫画『恋と嘘』(講談社)。

脳科学者の中野信子さんに、『恋と嘘』の重要なテーマである“遺伝子と恋”の関係を語るインタビュー、第3回で は「政府通知」に対する日本人の反応や、『恋と嘘』に期待することについて聞いてみました。

第1回「遺伝子が合う相手は相性もいい相手?」はこちら
第2回「結婚に向いていない遺伝子の持ち主がいる?」はこちら

脳学者・中野信子

日本人は、政府が決めた“結婚相手”を受け入れられる!?

——ところで今回、「国が遺伝子情報にもとづいて結婚相手を決めること」についてどう思うかアンケート(※)をとったのですが、27.3%が「とても賛成である」「やや賛成である」と回答したんです。これは漫画の読者ではない人たちへの調査なので、意外に多いなという印象ではありました。

逆に、反対の人は約7割ということなのですが、実は「前例に従いやすい」「従いにくい」という性質も遺伝子で決まるところがありまして、日本人の「前例に従いやすい」割合というのが、ちょうどこのアンケート結果と同じで、約7割なんですね。

要するに、自分が経験したことのない方法(遺伝子で選ぶ)はいや。従来のような形で恋愛や結婚をしたい、という保守的な傾向の方が7割いるということです。

日本人は保守的ではありますけど、新しい制度が始まってそれが安心だと分かれば、むしろ積極的に使うようになる傾向はある気はします。試験管ベビーとか人工授精も、始めの頃は抵抗がある意見が多かった印象がありますが、今はほとんどないですよね。

だから結婚相手も「政府通知」のほうを信用する、というふうにいずれはなるんじゃないでしょうか。ただ何か事故起こると、一気に下火になると思いますが。

——信頼できるなら、相手を決められること自体には抵抗がない、と?

一度「みんな」がそうし始めたら、抵抗はなくなるでしょうね。やはり日本は、長らくお見合い制度が続いてきましたしね。そもそも恋愛結婚って不自然ですし。ハッキリ言って(笑)。

共同経営者に近いようなパートナーシップを結ぶ必要のある婚姻関係と、どちらかというとスリリングで、あまり先が見えないけれども楽しい恋愛関係。これはもう、根本的に性質が違いますからね。

そんな恋愛のギャンブル性を避けるために遺伝情報を利用しませんか?というのであれば、多くの人が取り入れるんじゃないかと思います。

恋と嘘

気になるのは「政府通知」の演算式

——そう聞くと、遺伝子で決められるのは悪いことではない気がしてきました。

少なくとも私は制度ができたら、ある程度参考にしたいと思います。80点の幸せは得られる方法だと 思いますから。子供が健康に賢くスクスクと育ち、穏やかな二人の生活が続く、という……。

ただ漫画の中で気になったのが、政府通知に逆らったら出世などに響く、という点。ストーリーにおいては面白い要素として効いているんですけど、実際にそこまで強制的だとちょっと賛成できないですね。

というのも脳は、選択の余地とか新奇探索性を満たす何らかの要因がないと、喜びを感じられないんです。だから強制されてしまうと、政府通知の相手が魅力的に見えなくなると思うんですよね。とはいってもあまり選択肢が多すぎても混乱するので、5、6人の中から選んでくださいというのが、 一番機能しやすいカタチなんじゃないかと思います。まあそれはそれで修羅場になりそうですけど(笑)。

——遺伝子の相性が悪い相手と結婚した場合、そこを乗り越える方法はあるんですか?

それもどの要素を基準にするかによりますね。

子供の相性はいいけど性格の相性は悪い、という場合は乗り越えられる可能性があると思います。まあ乗り越えようという心情が生まれる時点で、それは相性がいいがということなんだと思いますけど。

一方、恋愛の相性は良くても結婚の相性は悪い場合、これは努力してもほぼ無駄だと思いますね(笑)。たとえば、奥さんが夫への恨み動画をブログにアップしたことで話題になっている某芸能人夫婦。

彼らは周囲の反対など様々な壁を乗り越えて結婚してますから、当時は強い愛情があったと思うんです。でもそれが何年か経た後、非常に深い憎しみに変わった。これは、恋愛の相性は良くても結婚の相性となるといいとはいえない、と感じる人が多いんじゃないでしょうか。

——なるほど。お聞きすればするほど、選択の自由があるなら「政府通知」は悪くはない気がしますね。それでは最後に、今後『恋と嘘』に期待するところを教えてください。

それはもちろん、「政府通知」の演算式ですよ。何にプライオリティを置いて計算結果が表示されているのか? 別の計算結果があり得るのか?多分この疑問こそが、今後の展開の軸となってきそうですけど。

ただ主人公の男の子がずっと片思いしていた女性というのは、恋愛にフォーカスした相性の良さである可能性が高いですよね。「政府通知」で決められた莉々奈のほうが、一緒にいてラクそうだし、結婚の相性は良さそう。まあ、恋愛は実らないからいいっていう話もありますからね(笑)。

——どうもありがとうございました。

※講談社が2017年6月に12歳以上の男女1,648名に対して行ったアンケート

恋と嘘(ムサオ:著)

「誰かを好きになる」——人はいつの間にその罠に墜ちるのか。人生のパートナーを国が決める世界。それは希望であり、絶望であった。どこにでもいる古墳好きの少年・根島由佳吏は、そのちっぽけな胸に、燃えるような恋心を秘めていた。恋が許されない世界で、16歳の夜、少年は、禁じられた冒険へはしり出す!!

コミック1〜6巻発売中
TVアニメ「恋と嘘」 TOKYO MX ほかにて好評放送中
映画「恋と嘘」 2017年10月14日(土)全国ロードショー

※本記事は中野信子さんへインタビューを行い構成しております